【弁護士インタビュー】口コミサイトに自社の悪評が書き込まれた場合の対処方法

SORILa編集部

弁護士

最終更新日 2023.09.30

お話を伺った方

創・佐藤法律事務所 佐藤有紀氏、武田和大氏
株式会社エフェクチュアル マーケティング部 松浦純司
(聞き手 広報 藤井文香)

1.導入

昨今増えている口コミサイト等に自社の悪評が書き込まれた際の対応について、創・佐藤法律事務所の佐藤弁護士・武田弁護士にお話を伺いました。

2.悪評書き込み時の対応

藤井:
悪評が書き込まれた場合の手段としてはどのようなものがありますか?

武田弁護士:
とりうる手段としては、「削除請求」、「損害賠償請求」、「刑事告訴」があります。

「削除請求」には、裁判上の手続によるものと、そうでないものがあります。

裁判外の手続については、「削除請求」又は「削除依頼」と呼ばれ、また特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダー責任制限法」といいます。)上の「送信防止措置依頼」と呼ばれることもあります。

主にWEBサイトの管理者(例:口コミサイトやSNS等の運営者)又はWEBサーバの管理者(例:レンタルサーバの提供事業者等)に対して書き込みの削除を任意に依頼する手続です。

他に、SNSで直接攻撃されたような場合であれば、投稿者本人に直接メッセージを送ることも考えられますが、対応してくれることは考えにくく、現実的でないでしょう。

WEBサイトの管理者又WEBサーバの管理者に対する請求については、プロバイダ責任制限法関連情報WEBサイト(http://www.isplaw.jp/)に送信防止措置依頼書の書式がありますので、記載内容はこちらが参考になるかと思います。

日本の主だったWEBサイトの管理者については、管理者(事業者)側から、所定の連絡方法(専用のお問い合わせフォームを利用する、指定のメールアドレスにメールを送る等)の指定があることもあり、これによるのがスムーズと考えられます。

一方で、裁判上の手続による「削除請求」は、裁判所に対して、書き込みの削除を命じる旨の命令又は判決を下すよう申し立てる手続をいいます。

実際のところ、一刻も早い削除を希望される方が多く、より迅速な手続である削除仮処分の手続が用いられるのが一般的です。

また、ほとんどのWEBサイトの管理者又WEBサーバの管理者は、削除仮処分が認められれば、それ以上争うことはなく、訴訟にまで発展することは少ないです。

「損害賠償請求」は、投稿者本人、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者に対して、不法行為に基づき損害賠償請求の支払を求める手続になります。

ただし、プロバイダー責任制限法により、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者に対して損害賠償請求ができる場合は限定されています。

「刑事告訴」は、投稿者本人の名誉毀損罪などで刑事処分を求める手続になります。

すべての場合に弁護士への依頼が必須ということではなく、ご自身で行っていただくことも可能です。

ただし、書面作成の難易度が高いこと、【3.相手方の特定】で後述するとおり、時間的な猶予が短いこと等の理由から、裁判上の手続によらない「削除請求」、「削除依頼」等以外は弁護士に依頼するのが一般的かと思います。

いずれの場合にも言えることですが、削除請求等が認められるためには、具体的な事実の書き込みにより名誉権、プライバシー権等の権利が侵害されたことを主張することが必要です。

例えば、「A社のサービスは投資詐欺ではないか?」、「A社は最低だ」といった抽象的な書き込みや、意見であり事実の適示でないものでは、名誉権の侵害は認められず、削除請求等は認められない可能性が高いと思います。

自分の意見を書き込むこともそれはそれで表現の自由が認められるのであり、それを逸脱するような書き込みについてのみ名誉棄損等として削除が認められるということになります。

こういった場合は、裁判上の手続を選択したとしても、望む結果を得られないことが多いでしょう。

また、仮に削除請求等が認められたとしても相当程度の時間と費用が掛かります。

以上を踏まえて、費用対効果を考えると、まずは裁判上の手続によらない「削除請求」ないし「削除依頼」を行うのが現実的かと思います。

投稿者に対する削除請求は、投稿者の特定が障害となりますし、実効性も乏しいですが、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者に対する削除請求を行うこと自体は、そこまで難しい話ではないので、まずはやってみることをおすすめします。

ただし、WEBサイトの管理者によっては、「削除請求」があったことやその理由を公表される等、新たな話題として取り上げられてしまうリスクがあります。

仮処分命令を受けていれば、具体的な理由を開示することなく、削除請求が認められるので、そういったWEBサイトの場合には、先に仮処分命令を受ける方が望ましいです。

藤井:
よくわかりました。ありがとうございます。

松浦:
最近相談があった内容で、逆恨みのような口コミを頻繁に書き込まれている、というものがありました。

コロナ渦でネットショッピングの利用者が急増していて、

  • 契約内容をきちんと読まずに購入してトラブルになる
  • 料金が払えず踏み倒そうとして、結局それができないので逆恨みのような形で悪評を何度も口コミサイトに書き込む

といったケースです。

自分の確認不足による責任を口コミサイトで鬱憤を晴らしたい、という利用者の心理なのかと思いますが、このような場合は訴える方向性も少し変わってくるのかなと思いますがどうでしょう?

佐藤弁護士:
その場合も、法的には採るべき手段は同じですね。
とはいえ、日々の対応も重要ではあります。

例えばGoogleマップもそうですし、ECサイトの口コミをまとめたサイト等には良い口コミも悪い口コミも当たり前に書き込まれていますよね。

きちんと返信をして悪いことがあれば受け止める、言いたいことや上手く伝わっていなかったことがあれば冷静かつ丁寧に返信をするのが第一です。

そういった返信が蓄積され、ユーザーの目に触れることで信頼が高まることもあります。
あまりにおかしな内容や激しい口調でのコメントは、「書き込んだ側がクレーマーなのかな?」となんとなく分かるでしょう。

Googleマップ、口コミサイト等でのコメントに対して、企業からの返信で終わりにするレベルのこともあれば、それを超えて断固とした措置を採るべきレベルのこともあります。

まずは弁護士に相談し、被害の影響・範囲を分析し「削除請求」、「損害賠償請求」、「刑事告訴」のうちどの手段に出るのが適切か、どこまでを相手方に求めたいかを相談するのが良いと思います。

対応手段のまとめ

書き込みを削除したい場合・・・削除請求

<裁判上の手続によらないもの>

  • お問い合わせフォームからの削除請求
  • メールによる削除請求

<裁判上の手続によるもの>

  • 削除仮処分
  • 削除訴訟(通常、削除訴訟にまで発展するケースは少ない)

金銭の請求をしたい場合・・・損害賠償請求

刑罰を課し、罪を償わせたい場合・・・刑事告訴

3.相手方の特定

武田弁護士:
次に、上記のいずれの請求をする場合にも相手方であるWEBサイトの管理者、WEBサーバの管理者、投稿者本人の全部又は一部を特定しなければなりません。

WEBサイトの管理者については、サイト上に表示されていることも多く、その場合にはすぐに特定できますが、削除請求の対象になるような書き込みがされているWEBサイトでは、表示されていないことも少なくありません。

WEBサイトの内容を確認して分からない場合は、WHOISというサービスを利用することで判明することが多いです。
WEBサーバの管理者についても、同様にWHOISを利用することで判明することが多いです。

この情報を基に、WEBサイトの管理者又WEBサーバの管理者に対して、削除仮処分を申し立てるわけです。

ただし、さらに投稿者本人に対して、損害賠償請求や刑事告訴を行う場合を行おうとする場合は、投稿者本人を特定しなければなりません。

松浦:
投稿者本人の情報については、ほとんどの場合、WEBサイトの管理者経由での開示になるかと思いますが、その管理者から投稿者本人を特定する情報を開示してもらうというのは、難しいことなんでしょうか?

武田弁護士:
投稿者本人に、損害賠償請求や刑事告訴を行う場合には、投稿者本人の住所、氏名等の情報を取得する必要がありますが、表現の自由及び個人情報保護の観点から、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者も、むやみに情報を開示することはできません。

あくまで、開示が認められるのは、具体的な事実が摘示され、名誉権、プライバシー権等の権利侵害が発生した場合に限定されます。

そして、権利侵害の有無の判断をWEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者が行うと、後に当該判断について投稿者本人から責任を追求されるリスクもあるので、任意に開示してもらえるかというと、難しいと思います。

藤井:
そうですよね。
開示する側も自社のWEBサイト上の規約等と整合性を取っていくことが必要になると思うので、基本的には裁判所等、公的機関からの通知がないと開示はなされないことを前提に対応していく方が良いということですね。

武田弁護士:
そうですね。
そういった問題を解決するために、プロバイダ責任法に基づく発信者情報の開示請求という手段が用意されています。

発信者情報の開示請求というのは、WEBサイトの管理者、WEBサーバの管理者及び投稿者とWEBサイトを繋ぐアクセスプロバイダ(例:OCN、auひかり、フレッツ光、UQ mobile等)に対して、投稿者本人の住所、氏名、IPアドレス等の個人情報を開示するように請求する手段のことを言います。

ただし、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者が保有している投稿者本人に関する情報は、いつ、どのIPアドレスからアクセスがあったかという情報に限定されており、通常、投稿者本人の住所、氏名等の情報は保有していません。

そのため、投稿者本人の住所、氏名等を特定するためには、WEBサイトの管理者又はWEBサーバの管理者を特定し(下表の①部分)、当該WEBサイトの管理者又はWEBサーバ管理者に発信者情報の開示を請求する(下表の②部分)ことで、アクセス情報のうちIPアドレスとタイムスタンプの開示を受けます(下表の③部分)。

その上で、当該IPアドレスとタイムスタンプから、中継するアクセスプロバイダを特定し(下表の④部分)、再度、アクセスプロバイダに発信者情報の開示を請求することで(下表の⑤部分)、アクセスプロバイダと契約関係にある投稿者本人の住所、氏名等の開示を受けることになります(下表の⑥部分)。

さらに、いわゆる格安スマートフォン等の出現により、アクセスプロバイダを複数経由する場合もあり、この場合には、経由するアクセスプロバイダの数だけ発信者情報の開示請求を順次行う必要があります。

このような手続を経て、ようやく投稿者本人を特定し、損害賠償請求又は刑事告訴を行うことになります(下表の⑦部分)。

また、気をつけなければならないのは、WEBサイトの管理者、WEBサーバの管理者及びアクセスプロバイダには、いつ誰が当該WEBサイトにアクセスしたのかというアクセス情報を保存しておく法律上の義務はなく、ほとんどの事業者が、3ヶ月から6ヶ月でアクセス情報を消去しています。

裁判は6ヶ月以上かかりますから争っている間に情報が消えてしまい、追跡できないことも起こりえます。

そのため、このような事態を避けるために、投稿者本人に対する責任追及を行う可能性があるのであれば、アクセス情報の保存請求(任意での請求又は仮処分申立て)も併用することが必要です。

発信者情報開示請求書のひな型はネットでも検索できますが、時間がかかるほど情報が消えて追跡できなくなるリスクが高まることから専門家を頼る手段を含めて考えていただくと良いと思います。

発信者情報開示のまとめ

(1)発信者情報開示の流れ

発信者情報開示の流れ

(2)発信者情報開示の要件

特定電気通信による情報の流通であること

特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいいます。

インターネット上のWEBサイトの情報は上記に該当します。メール等の1対1のコミュニケーションは不特定の者ではないため、該当しません。

自己の権利を侵害されたとする者

他人の権利を侵害されたことを理由に請求することはできません。

正当な理由があること

情報を整理の上、権利が侵害されたことを書面にすることが必要です。
※裁判所への提出書類となるため弁護士への依頼がスムーズです。

(3)発信者情報開示請求の対象と開示される情報

開示される情報:「発信者情報」

  • 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
  • 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
  • 発信者の電話番号
  • 発信者の電子メールアドレス
  • 侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス
  • 侵害情報に係る携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • 侵害情報に係るSIMカード識別符号
  • 侵害情報が送信された年月日及び時刻

法的請求のまとめ

4.法的手段が難しい場合

藤井:
まずは状況を把握して顧問弁護士等がいる企業も多いと思うので相談するのが一番ですね。
その上で悪意ある書き込みと判断した場合にどこまでを求めるか決めて迅速に対応をしていく。

武田弁護士:
ただ、これはさすがに法律的に解決するのは難しいな、という案件もあります。
その場合にはエフェクチュアルのWEBリスクコンサルティングサービスと並行して検討する等していくことをおすすめします。

藤井:
どのようなサービスになりますか?

松浦:
専任のコンサルタントが企業のネット炎上、誹謗中傷について、様々なケースに合わせてサポートさせて頂いております。

まずは現状の把握が必要となります。
無料にて状況把握のレポートもさせて頂いておりますのでお気軽にお問い合わせ頂ければと思います。

佐藤弁護士:
弁護士が対応する場合にもある程度は時間が必要となり、その間にも悪意ある書き込みが目に触れることにより自社ブランドの毀損や機会損失が発生するリスクがあります。

自社での対応・対策が難しいと判断した場合には、できるだけ早く顧問弁護士又はWEBリスクの解決実績を持つ弁護士その他の専門家に相談し、早期に対策をすることをおすすめします。


インタビュー協力:創・佐藤法律事務所(丸の内オフィス)
電話番号:03-6275-6080
HP:https://innovationlaw.jp/

▼創・佐藤法律事務所 佐藤有紀弁護士
佐藤有紀弁護士
弁護士、米国ニューヨーク州弁護士。
グローバルローファームの東京事務所パートナー等を経て、2019年1月より創・佐藤法律事務所。
同事務所にて、M&A・投資、ファンド関連取引、ベンチャーアドバイザリーを所管する。
Best Lawyers rankings においても日本におけるCorporate and M&A Law分野の弁護士として、ランク・インしている。

▼創・佐藤法律事務所 武田和大弁護士
武田和大弁護士
都内企業法務系法律事務所に入所後、2020年8月より創・佐藤法律事務所。
世界最大級のエンジェル投資家コミュニティの日本法人Managerを務める等、スタートアップ企業を取り巻くエコシステムの活性化に尽力するとともに、スタートアップ企業に関連する法分野に多く携わる。

WEBリスクコンサルティングサービス
電話番号:03-6447-2175
HP:https://eff-webrisk.com


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